ガラスの事件簿 オプション加工

耐熱ガラスが割れるとき

2024/11/06

耐熱ガラスが割れるとき

鏡とガラスの博士
こんにちは!ドクターKです。みんなからは「博士」って呼ばれています。


熱に耐えると書いて耐熱ガラス。どのような温度まで耐えることができるのでしょうか?
また、どんな条件下でどのように割れるのでしょうか?
それらを踏まえ、どのような設置方法が適切なのでしょうか?


建築現場や家具製造の場で耐熱ガラスの採用を検討されている方に向けて解説させていただきます!

耐熱ガラスが耐えられるもの

耐熱ガラスって名前、格好いいですよね!でも熱の何に対して耐えているのでしょうか?


また、耐えられなくなったら割れるのでしょうか?それとも溶ける?
高温に強いのでしょうか?それとも温度差に強いのでしょうか?


たとえば僕は、42℃のお湯につかるとグニャグニャになって何もできなくなってしまいますし、朝晩の気温差が10℃を超えると風邪をひいてダウンしてしまいます。
アハハ、人間と一緒にしてはいけませんね(笑)


あらゆる分野で活躍している「耐熱ガラス」の特長や耐熱温度についてしっかり解説します!

最高何度まで耐えられるのかが耐熱温度

ガラスを扱っているプロの方でもよくわかっていない方がたくさんいらっしゃるのですが、「耐熱温度」とはその温度まで「割れない」という意味ではありません!
実は耐熱温度とは、そのガラスが何度まで普通の状態でいられるか、「結晶化」「焼け」などで変色したり強度が落ちたりしないか、という意味です。
また、短時間なら耐えられる温度(最高温度)と、長時間でも耐えられる温度(常用温度)の2種類の基準があります。



普通ガラス(普通強化)


普通ガラスの最高耐熱温度は約80℃といわれています。
何しろ耐熱ガラスではないのでメーカーの保証データはありません。
沸騰したお湯には耐えられないことになります。ましてや、直火に当てると透明度が失われます。
強化ガラスも耐熱ガラスの仲間のように扱った情報を目にしますが、ガラスメーカーが耐熱ガラスとして作っているわけではないので強度の保証データも何度まで大丈夫とかありません。後に書きますが急な温度変化に強いというだけです。


テンパックス


ドイツのガラスメーカー(世界中に工場や支社があります)ショット社の耐熱ガラスがテンパックスです。普通のガラスとは組成分が違います。
常用使用(10時間以上)で450℃、最高使用(10時間未満)500℃となります。
テンパックスを強化加工した場合は温度変化で割れにくくなりますが耐熱温度は逆に低くなるので注意が必要です。


ファイアライト(ネオセラム)


日本電気硝子建材社の耐熱ガラスです。結晶化ガラスで短時間使用800℃、連続使用では750℃となります。ネオセラムという耐熱ガラスとメーカー、成分共に同等品で、主に建材用途として販売流通しているのがファイアライトです。ネオセラムは名前が違うだけで、光学品や工業向けの素材として流通しています。


石英ガラス


普通のガラスの原料である石英を不純物や金属を添加せずに純粋な二酸化ケイ素だけで作られたガラスです。
常用使用900℃、最高使用1000℃となります。

急熱、急冷しても大丈夫?

建築や家具製造の用途で考えなければならないのは、どちらかといえばこちらの耐熱衝撃温度のほうかもしれません。
どれぐらいの急激な温度変化に割れずに耐えられるかの温度差を表しています。


もし先ほどの耐熱温度をこえて使用したとしても少しずつ表面がゆがんだり柔らかくなるだけですが、
この、耐熱衝撃温度を超える急な温度変化で使用すると一瞬で割れてしまい危険を伴います。



また、熱応力についても注意してください。これは1枚のガラスにおける高温な場所と低温な場所の温度差のことです。


ガラスは金属などに比べて極端に熱伝導率の低い物質です。ガラスの一部分だけが急に熱くなると、冷たいままの部分との間で膨張率の違いから力が加わり割れてしまいます。このようなメカニズムから、ガラスの厚さは薄いほうが熱衝撃には強く割れにくい事がわかります。厚いガラスは温度差が生じてしまうので割れる危険が高まることに留意してください。


普通強化ガラス


耐熱ガラスではないので正確なデータ値がありません。
強化加工して強くなっているおかげで急な温度差にも割れにくくなりますが、注意が必要なのは長期間使用していると表面に傷が出来たり、内部に蓄えられた耐力が高温のせいで弱くなり割れやすくなることです。


テンパックス


ちょっと驚きの数字ですが160℃の急激な温度変化やガラスの一部分に80℃の温度差ができると割れてしまうということです。ヒートショックとも言います。これは温度差なので急冷の場合にもあてはまります。
耐熱温度500℃まで使用できると安心してはいけません。たとえば火にかけた状態から、その後に一部分だけに氷水で20℃まで急冷すると割れる危険があるということです。
テンパックスも普通ガラスのように焼き入れによって強化加工が可能です。耐熱衝撃温度差と熱応力を高めることができます。


ファイアライト


片側からは炎であぶり、片側からは放水しても割れないガラス。耐熱衝撃温度800℃!熱による膨張がほとんどないので割れる応力がかかりません。日本電気硝子建材の商品説明ページには自信満々に炎の写真や動画が掲載されています。
ファイアライトがなぜこれほどの熱衝撃に強いのか、少し専門的な説明をさせていただくと・・・
ガラスは透明できれいですが、結晶ではありません。固体の状態で固まっていますが、温度が上がれば不連続に膨張し柔らかくなる特殊な状態です。しかし、ファイアライトはそうではありません。ガラスの中に高温になると逆に縮む特性のある微小な結晶を混ぜることで伸び縮みを絶妙なバランスでゼロにしています。伸び縮みをゼロにすることで高温になっても割れません。


石英ガラス


900℃までの温度変化に耐えられますが、何しろ高額で、小さな元板しかありませんから建築や家具に使用されることはありません。その透明度の高さや化学的安定性から光学品や理化学機器、精密工業品に使われています。

衝撃には強いの?加工しても大丈夫?

普通強化ガラス


ガラスを焼き入れすることで強度が増します。これは化学的な変化が起きたのではなくて、物理的な作用による強度です。
強度を増したフロートガラスは急激な熱変化によってうける衝撃にも強くなりますし、他の力に対しても当然割れにくくなります。
ただし、ガラスカッターなどでの切断加工はもうできません。ガラス内部に蓄えられたテンションが崩れて全面崩壊してしまうからです。


テンパックス


強度は普通のガラスと同じ程度ですが、テンパックスもフロートガラスと同じよう焼き入れによって物理的な強化加工が可能です。強化加工していなければガラスカッターなどで切断加工できますが、強化すると全面崩壊するので再加工できません。


ファイアライト(ネオセラム)


衝撃に対する耐力は普通のガラスと同じ程度です。特に硬くもやわらかくもありません。ガラスカッターで普通にカットができます。

耐熱ガラスの割れ方と割れない予防法

高額な耐熱ガラス。もし割れてしまったらその損害は計り知れません。ましてやその時に誰かが怪我してしまったら・・・


初めて耐熱ガラスを施工される方、必見の項目です。



熱の変化によって力が加わることでガラスの耐力が限界に達して割れるのです。つまり温度の差が起きないような取付方法で施工すれば熱で割れることを防げます。ファイアライトのように800℃もの耐衝撃温度があればまず熱で割れる心配はありませんが、普通強化ガラスやテンパックスを採用する場合には以下の点を特にご注意ください


1枚の中で温度差ができる部分は主に、枠にはまり込んでいる部分です。金属枠の場合は高温になった枠にガラスが付着して温度差が生じてしまいます。そのため設計施工時は、ガラスと枠が直接当たらないようにスペースを設ける工夫が必要です。耐熱ゴムのパッキンを使用するのが一般的です。


また、樹脂や木材など熱伝導率が低い素材を枠に使う場合は、金属とは逆に、露出したガラスだけが熱くなって隠れている部分が冷たいままになり温度差が生じてしまいます。できるだけ熱源から隠れる部分を少なくし温度差が生じないようにしてください。


枠以外でも部分的に熱を遮ってしまって温度差が生じて割れたり、布をかけるだけでも熱を遮断して割れることもあります。とにかくガラス全体に温度差が生じないことが重要です。

耐熱ガラスを購入するには

子供のころにはよくキャッチボールをしていて、ガラスを割って親に怒られました。最近はそんなことも少なくなったのでしょうか?街中にガラス屋さんが少なくなりました。その代わりなんでもインターネットで買えるようになりましたね。耐熱ガラスもインターネットでオーダーして現場や工場に配達してもらいましょう。

自動販売機で耐熱板ガラスが買える?


家具や建築で使う様々な板ガラスを、まるで自動販売機で買うように簡単な操作でオーダーできるサイトがあります。テンパックスやファイアライトといった特殊なガラスも料金と完成日が瞬時に表示されます。


値段は1㎡換算で普通強化硝子が12000円ぐらい、テンパックスで50000円ちょっと、ファイアライトで85000円ほどです。普通のガラスよりずいぶん高額ですね。


また、完成日ですが、テンパックスとファイアライトは在庫している板を加工しますので最短で当日出荷が可能ですが、強化硝子の場合は熱入れや検査などたくさんの工程があり2週間ほどかかります。



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まとめ

耐熱温度は「割れない」と意味ではなく、溶けたり弱くなったりする温度。


割れるかどうかは「耐熱衝撃温度差」で判断する。


ファイアライト」が家具や建築で一般に使われる耐熱ガラスで最強。しかし高額。


ガラスは熱に対して厚い方が割れやすい、逆に薄いガラスの方が熱に強い


ガラスが割れないように施工するなら枠による温度変化に気を付けることが重要。

ライター

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博士

鏡とガラスの専門家・ドクターKです。「博士」と呼ばれています。皆さんがよく巻き込まれるトラブルの原因やメカニズムを動画やコラムでわかりやすく解説します。